物流会社の情報管理を強化するプライバシーマークとは?取得のメリット・事故リスク・運用ポイント

EC市場の拡大や3PLの普及により、物流会社が取り扱う個人情報は増えています。配送先の氏名・住所・電話番号に加え、注文情報、購買履歴、返品対応に関する情報など、倉庫業務では個人情報を含むデータが日常的に扱われます。情報管理が不十分な場合、情報漏えいやシステム停止が発生し、荷主企業の信用低下や物流業務の停滞につながるおそれがあります。
こうしたリスクに備える上で、プライバシーマーク(Pマーク)は、物流会社の情報管理体制を確認する一つの目安になります。Pマークは、個人情報保護マネジメントシステム(PMS)を構築し、委託先管理、従業員教育、内部監査などを継続的に運用している事業者に付与される制度です。
本記事では、物流会社がPマークを取得するメリットだけでなく、取得していない場合のリスクや、荷主企業が委託先を選ぶ際の確認ポイントまで解説します。物流業務を外部委託する際は、保管・出荷の対応力だけでなく、個人情報を適切に扱う体制が整っているかを確認することが大切です。
目次
物流会社が扱う個人情報の実態

倉庫業務で発生する個人情報の種類
物流会社では、入荷から出荷までの各工程で多様な個人情報が発生します。個人情報とは生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日などにより特定の個人を識別できるものを指します(参照*1)。
倉庫業務に当てはめると、出荷伝票に記載される届け先の氏名・住所・電話番号が代表的です。加えてEC通販の受注データには購入者のメールアドレスや購買履歴が含まれ、返品対応では決済情報を参照する場面もあります。さらに倉庫で働く従業員やパート・アルバイトの雇用関連情報、業務委託先の担当者情報も個人情報に該当します。
実際に大規模なサイバー攻撃を受けた通販大手の事例では、事業所向けサービスに関する個人情報約59万件、個人向けサービスに関する個人情報約13万2,000件、取引先に関する情報約1万5,000件、役員や社員等に関する情報約2,700件が流出対象になったと公表されました(参照*2)。物流会社が日常的に扱う情報の幅広さと量の多さが、そのまま漏えい時の被害規模に直結することが分かります。
3PL・EC拡大と情報量増加の背景
物流会社が預かる情報量が増えている背景には、3PLの普及とEC市場の拡大があります。3PL事業者は荷主企業の物流業務を包括的に引き受けるため、荷主が持つ顧客データベースや受注管理システムと倉庫のシステムが連携する構造になります。ある通販大手のシステム障害では、グループ会社が3PL事業として物流業務を受託していた製造小売業のネットストアおよびアプリが約2カ月にわたって停止しました(参照*3)。
この事例は、3PLを介して複数の荷主の個人情報が1つの倉庫システムに集約される構造を示しています。荷主が増えるほど倉庫側で管理すべき情報の種類と量は膨らみ、1カ所のシステム障害が複数ブランドの個人情報に影響を及ぼすリスクも高まります。
個人情報の保管・管理では適切な安全管理措置が求められ、個人データの漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれが大きいなど、法令上の報告対象に該当する場合は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です(参照*4)。物流会社にとって情報管理の強化は、もはや付随業務ではなく事業継続に関わる中核課題といえます。
プライバシーマーク制度の基本
JIS Q 15001に基づくPMSの仕組み
プライバシーマーク(Pマーク)制度は、日本産業規格の「JIS Q 15001:2023」に基づき、個人情報を適切に取り扱う体制を整備・運用している事業者を評価し、JIPDECがPマークの使用を認める制度です(参照*5)。制度の中心にあるのがPMS(個人情報保護マネジメントシステム)と呼ばれる管理体制で、企業が個人情報をどのように収集・利用・保管・廃棄するかを一連のルールとして定めたものです。
PMSの構築・運用にあたっては、JIS Q 15001の要求事項に加え、プライバシーマークにおける個人情報保護マネジメントシステム構築・運用指針に沿って体制を整える必要があります(参照*6)。具体的な要求事項としては、マニュアルや個人情報管理規程、個人情報保護方針の作成に始まり、個人情報の特定、関連する法規制の特定、リスクアセスメント、委託先の評価、全従業員への教育、内部監査、マネジメントレビューが挙げられます(参照*7)。
物流会社の倉庫現場でいえば、出荷伝票に含まれる届け先情報や受注データを「どの部署が」「どの権限で」「いつまで」保管するかを規程に落とし込む作業が出発点になります。PMSはこうしたルールをPDCA(計画・実行・確認・改善)の繰り返しで更新し続ける枠組みであり、一度つくって終わりではない点が特徴です。
取得の要件と審査の流れ、取得後の有効期限
Pマークを取得するには3つの要件を満たす必要があります。第1にPマーク付与の対象となる事業者に該当すること、第2にPマークの要求事項に適合するPMSの構築・運用を行うこと、第3に一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が指定する審査機関による付与適格性審査を受審することです(参照*7)。審査は書類審査と現地審査の2段階で、PMSが規程どおりに運用されているかを厳格に確認されます。
申請先はプライバシーマーク指定審査機関(19機関)またはJIPDECで、業種あるいは本社の所在地によって決まります(参照*8)。申請できるのは日本国内に活動拠点を持つ事業者で、付与は法人単位となります(参照*6)。
Pマークの有効期限は2年間で、継続して使用するには更新審査を受ける必要があります。更新のたびにPMSが実態に合っているかを見直す機会となるため、倉庫会社にとっては情報管理の水準を定期的に底上げする仕組みとして機能します。
PマークとISMSの違い
Pマークと比較される認証制度に、ISMS(ISO/IEC 27001)があります。
Pマークは個人情報保護法に規定された義務を遵守するために必要な仕組みを適切に構築・運用していることを対外的にマークによって示す制度であるのに対し、ISMSは組織が有する全ての情報資産のセキュリティ確保の仕組みを適切に構築・運用していることを認証する制度です(参照*9)。
そのため、物流会社によってはPマークとISMSを取得している企業もあります。一方で、個人情報を中心に取り扱う物流業務では、Pマークを取得することで個人情報保護体制を第三者に示すことができます。当社でもこの考え方に基づき、Pマークを取得しています。
物流会社を選定する際は、PマークやISMSの取得状況に加え、実際の情報管理体制や運用状況も確認することが重要です。
物流会社がPマークを取得するメリット

荷主・取引先からの信頼獲得
Pマークの取得は、第三者機関による審査を受けて個人情報を適切に取り扱うためのPMSを構築・運用していることを対外的に示すものです。そのため社外への信頼向上につながり、Pマークを取得するとホームページや名刺などにもマークを記載できます(参照*6)。
荷主企業にとって、自社の顧客情報を預ける物流会社の情報管理レベルは重大な関心事です。Pマークを掲げている倉庫会社であれば、個人情報保護に関する規程・教育・監査が整備されていることを外部から確認できます。
3PLのように複数の荷主から業務を受託する倉庫会社では、荷主ごとに情報管理の要求水準が異なる場合があります。Pマークという共通の基準を満たしていることで、個別の確認作業を簡素化でき、新規取引の商談がスムーズに進みやすくなります。
Pマークを取得している企業は、個人情報を保護するためのルールを整備しているだけではなく、そのルールを継続的に運用・改善していることが第三者機関によって確認されています。
ダイワコーポレーションでは、2006年から約20年にわたりプライバシーマークの更新審査を受け、情報管理体制の改善を積み重ねています。個人情報を取り扱う物流業務では、単に情報を保護するだけではなく、必要以上の個人情報は受け取らないことが、情報漏えいリスクを減らす有効な対策の一つと捉え、「必要な個人情報だけを取り扱う」という考え方を重視しています。 荷主様との事前打ち合わせでは、物流業務に必要な個人情報を特定し、不要な情報は受け取らない運用を徹底しています。また、受け渡し方法や保管・廃棄方法についても事前に取り決めを行うことで、情報漏えいリスクの低減に努めています。こうした取り組みにより、お客様から安心して物流業務をお任せいただける情報管理体制の維持・改善に継続して取り組んでいます。
情報漏えいリスクの低減効果
Pマーク取得のメリットの1つに、情報漏えい防止への寄与があります。PMSの構築過程で、社内のどこにどのような個人情報があるかを洗い出し、それぞれにリスクアセスメントを行うことで、手薄な領域を事前に把握できるためです。
物流会社では、WMS(倉庫管理システム)や受注管理システムなど複数のシステムが連携しており、データの受け渡し地点が漏えいの発端になりやすい構造です。PMSのリスク評価を通じて、アクセスログの取得漏れや暗号化の不備といった具体的な弱点を可視化し、対策を講じる流れが生まれます。
さらに全従業員への教育が要求事項に含まれるため、現場スタッフを含めた組織全体の情報管理に対する意識を底上げできます。ルールの整備とヒトの意識改善の両面からリスクを下げられる点が、Pマーク取得の実務的な強みです。
サイバー攻撃による被害事例

情報管理体制が十分でない場合、サイバー攻撃による被害は物流の全面停止にまで発展します。2025年10月、通販大手がサイバー攻撃によるシステム障害を公表し、商品配送業務が停止する事態に陥りました。日用品やオフィス用品を日常的に利用する企業や個人にとって、配送停止は極めて大きな影響を及ぼしました(参照*10)。
ランサムウェア被害と物流停止の実例
攻撃の侵入経路は、業務委託先が使用していた管理者アカウントの認証情報漏えいでした。多要素認証(MFA)が適用されていなかったことが不正アクセスの突破口となり、流出した個人・顧客情報の総数は約74万件に上りました(参照*3)。
この被害企業では、物流センターを管理運営する複数の物流システムが暗号化され、同データセンター内のバックアップファイルも暗号化されたために復旧に時間を要しました。自動倉庫設備やピッキングシステム等が高度に自動化された構造であったため、物流システムの停止が出荷業務の全面停止という重大な影響につながりました(参照*11)。この事例からは、委託先に付与するアカウントの管理や、多要素認証を含むアクセス制御を例外なく運用する重要性が確認できます。
サプライチェーン賠償問題の顕在化
サイバー攻撃の被害は、攻撃を受けた企業だけでなく、サプライチェーン全体に賠償という形で波及します。前橋市とNTT東日本の9,500万円の和解、エムケイシステムを巡る3億円の集団訴訟、大阪急性期・総合医療センターでの10億円の和解、そして物流会社による委託元への10億円の賠償負担など、過去の攻撃が企業間の法的責任として噴出した事例が報告されています(参照*12)。
物流会社は多くの場合、荷主から個人情報の取り扱いを委託される立場です。委託先としての情報管理に不備があれば、損害賠償の責任を負うリスクがあります。とりわけ3PLのように複数の荷主から業務を受託している場合、1件の漏えい事故が複数の荷主との賠償交渉に発展する可能性も否定できません。
Pマークの取得は賠償リスクそのものをゼロにするものではありませんが、PMSに基づく委託先管理やリスクアセスメントを通じて、脆弱な箇所を事前に特定し対策を打つ体制をつくれます。賠償額が億単位に達する事例が出ている以上、体制整備のコストと比較して判断する視点が欠かせません。
物流現場における運用のポイントと注意点

委託先管理とアクセス権限の統制
物流会社では、配送業者やシステム保守会社など複数の委託先が個人情報に触れる場面があり、委託先管理はPMS運用の要です。個人情報の取り扱いの全部または一部を委託する場合は、委託した個人情報の安全管理が図られるよう、委託先と必要な契約を締結し、個人情報の取扱状況を点検する等の適切な監督を行うことが求められます。
アクセス権限の統制も欠かせない要素です。通販大手の被害事例では、例外的に多要素認証を適用していなかった業務委託先に付与していた管理者アカウントのIDとパスワードが何らかの方法で漏えいし不正利用されたことが確認されています(参照*11)。
この事例は、たった1つの例外運用がシステム全体の侵害につながることを示しています。委託先ごとにアクセスできる情報の範囲を限定し、多要素認証を例外なく適用する運用ルールを定めておくことが、物流会社の情報管理において優先度の高い取り組みです。
従業員教育と内部監査の継続
PMSの運用では、全従業員に対する教育と内部監査が要求事項に含まれています。物流会社の現場は正社員だけでなく、パートタイムや派遣スタッフなど多様な雇用形態のスタッフが働いており、一人ひとりが個人情報に接する場面があります。伝票の取り扱い、端末のログイン管理、廃棄書類の処理方法など、日常業務に即した教育を繰り返し実施する必要があります。
PMSの運用はPDCAサイクルを回して1回以上記録することが求められます(参照*7)。内部監査はこのPDCAの「確認」にあたる工程で、規程どおりに運用されているかを社内の監査担当者が点検します。監査で見つかった不備を改善計画に反映し、次のサイクルに組み込むことで、情報管理の水準は段階的に高まります。
倉庫現場では、繁忙期に臨時スタッフが増員されるなど人員構成が変動しやすい特徴があります。教育と監査を年1回の形式的な行事にとどめず、人員変動のタイミングに合わせて実施する運用設計が、形骸化を防ぐうえで効果的です。
おわりに
物流会社では、ECや3PLの拡大に伴い、配送先情報、注文情報、帳票類、取引先情報など、個人情報を含むデータを扱う場面が増えています。情報管理が不十分な場合、情報漏えいやシステム停止により、荷主企業の信用低下や物流業務の停滞につながるおそれがあります。
プライバシーマークは、個人情報保護マネジメントシステム(PMS)を構築し、委託先管理、アクセス権限の統制、従業員教育、内部監査などを継続的に運用していることを確認する一つの目安になります。物流会社を選ぶ際は、保管・出荷の対応力だけでなく、個人情報を適切に扱う体制が整っているかも確認することが大切です。
ダイワコーポレーションは、2006年から約20年にわたりプライバシーマークを継続して取得し、個人情報保護マネジメントシステム(PMS)の運用を続けています。情報を「守る」だけでなく、「必要以上の個人情報は受け取らない」という考えのもと、荷主様との事前協議を通じて取り扱う個人情報を明確にしています。さらに、受け渡し方法や保管・廃棄方法についてもルール化しています。
また、配送業務を委託する協力会社に対しても、個人情報保護に関する教育や安全管理措置を求めるなど、サプライチェーン全体で情報管理の品質向上に取り組んでいます。さらに、現場では伝票管理やアクセス権限の設定、出力帳票の適切な回収・廃棄など、日常業務に密着した運用を徹底し、情報漏えいの防止に努めています。
物流業務では、お客様の大切な個人情報を取り扱う機会が数多くあります。だからこそ、形式的に認証を取得するだけでなく、日々の業務の中で個人情報保護を実践し続けることが重要です。情報管理体制は、物流会社を選ぶ際の重要な判断基準の一つです。Pマークの取得状況だけでなく、日々どのような運用を行っているかも確認し、自社に適した物流パートナーを選びましょう。
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参照
- (*1) 個人情報保護法とは――個人情報の定義や関連用語、企業が守るべき四つのルールをわかりやすく解説
- (*2) INTERNET Watch – アスクル、ランサムウェア攻撃の詳細な調査結果を公開~個人情報など72万件以上の流出確認
- (*3) IT Leaders – アスクル、ランサムウェア被害の調査結果を公表─原因は委託先アカウントの漏洩
- (*4) 個人情報保護委員会 – 漏えい等の対応とお役立ち資料
- (*5) プライバシーマーク制度|一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC) – 概要
- (*6) 名刺発注システムのPRINTBAHNⅡ|コラム一覧 – Pマークの取得方法を知りたい!取得までの所要期間や費用についても解説
- (*7) ISOプロ – 【完全版】Pマークの取得方法・申請の流れをわかりやすく解説
- (*8) プライバシーマーク制度|一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC) – 新規申請方法
- (*9) 一般財団法人 日本情報経済社会推進協会 – 「プライバシーマークとISMS認証について」
- (*10)東洋経済オンライン – ランサムウェアは何カ月も潜伏するのがフツー《アスクルとアサヒGHDへの「サイバー攻撃」》対策していたのに被害・・・どこに隙があったのか
- (*11) ランサムウェア攻撃の影響調査結果および 安全性強化に向けた取り組みのご報告
- (*12) JAPANSecuritySummit Update – – JNSA 2025年セキュリティ10大ニュース




